竹井千代(杉咲花)が道頓堀から消えて1年後。天海一平(成田凌)のスキャンダルの影響で鶴亀新喜劇に暗い影が立ち込める一方、NHKでは新しいラジオドラマがスタートしようとしていた。大人気喜劇役者の花車当郎(塚地武雅)が相手役に千代を熱望して女優に復帰させようと奮闘した、4月26日(月)~30日(金)のNHK連続テレビ小説『おちょやん』を振り返ろう。
女優復帰を決意した千代、花籠の送り主は栗子
ラジオドラマ『お父さんはお人好し』の主演となる夫婦役にはベテラン女優が第一候補となっていたが、当郎は千代を推薦した。しかし、1年前の事件をきっかけに千代は行方知らずに。当郎は「千代を探してほしい」と頼むが、脚本家の長澤誠(生瀬勝久)は反対する。
演出助手の桜庭三郎(野村尚平)たちは千代の居場所を突き止めるが、長澤の手前、見つからなかったことにした。しかし、後日行われた会議で長澤の気持ちが変わったため、京都の千代のもとへ足を運び、ラジオドラマ出演を申し込むが、千代は断った。
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1年前、家を飛び出した千代は継母の上田栗子(宮澤エマ)と遭遇する。栗子は、かつて千代にしたことを謝った上で、戦争で両親を亡くして1人になってしまった孫の水野春子(毎田暖乃)の面倒を見てほしいと頼んだ。
過去の仕打ちを忘れられずに心を閉ざしていた千代だったが、「ほかに行くあてが見つかるまで」という約束で栗子と春子との暮らしが始まった。自分が奉公に出されてからの栗子の生活や抱えていた事情を知り、春子との距離も近くなった千代は自分らしさを取り戻していき、3人で静かに暮らしていたのだ。
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桜庭から千代の居場所を聞いた当郎は京都へ。家に上がり込み、ラジオドラマ出演を頼んだ。何とか千代を復帰させたい当郎と断りたい千代の攻防戦は、まるで漫才のようで、それを見ていた栗子と春子からは笑いがこぼれ、千代は久しぶりに芝居を楽しんだ。
その日の夜、千代がこれまでの芝居人生を振り返っていると、春子が作文の宿題を手伝ってほしいとやってきた。春子が、緊張するからみんなの前で発表するのが苦手だとこぼすと、千代は大きい声で堂々と発表したら大丈夫だとアドバイスした。
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ラジオドラマの出演依頼は丁重に断ったが、春子からは芝居を見たいと言われ、栗子からは芝居をしてもしなくても千代は千代だと言われ、千代の心は揺れ動いていた。
そんなときに、長澤がラジオドラマの出演依頼をしに来た。道頓堀の仲間が千代が女優として戻ってくると信じていること、先日の当郎とのやり取りこそが自分の求めていたものだったこと、生きていればおもしろいことが起こるはずだと伝えるには千代が必要だ、と力説したが、千代は「つらかったことを思い出したくない」からと、首を縦に振らなかった。
その日の夕方、春子が作文の発表に成功したと喜びながら帰ってきた。千代のおかげだ、これからも一緒にいてほしいと言われ、千代は涙を流した。
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千代はラジオドラマに出演することを決心。久しぶりに台本を手にして、寝る間を惜しんで練習に励んだ。その様子を見ていた栗子は、ラジオドラマの初顔合わせの日に千代に花籠を渡した。これまで、事あるごとに千代に届いていた花籠の送り主は栗子だったのだ。
栗子は、千代が女優になったとわかってから、ずっと見ていたと告白。涙ながらに、千代の芝居が好きで、役者に戻ることがうれしく、これからも応援するからがんばれと激励され、千代は思わぬ事実に驚きながらも、うれしさのあまり涙がこぼれた。
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初顔合わせで、千代はもう二度と後ろを振り返らずに、前だけを見て女優道に邁進すると誓った。
脚本家・長澤のモデルは大阪を代表する文化人
先週から登場した『お父さんはお人好し』の脚本家の長澤誠。演じるのは実力派俳優の生瀬勝久。優しくも奥行きのある演技で、好印象を残した。
長澤のモデルとされるのは、実際に花菱アチャコと浪花千栄子のラジオドラマの脚本を務めた長沖一(ながおきまこと)。実は、1984年度に放送された朝ドラ『心はいつもラムネ色』のメインキャストのモデルにもなっている。
大阪出身の長沖は東京帝国大学(現・東京大学)を卒業後に入隊するが、1年も経たずに除隊して大阪に戻り、吉本興業の文芸部で編集職に就いた。日中戦争時には「わらわし隊」という慰問団を結成。2017年度の朝ドラ『わろてんか』で、芸人たちが慰問のために結成した「わろてんか隊」のモデルとなっている。
その後は作家業も始めて、小説や舞台に漫才の脚本を執筆。その傍らで、大学で教鞭も振るった。小説家・放送作家・教授とマルチに活躍した、大阪を代表する文化人と言えるだろう。
『おちょやん』で千代は『お父さんはお人好し』で女優に復帰したが、千栄子は『アチャコ青春手帖』という作品で女優復帰を飾っている。こちらも長沖が脚本を務めており、アチャコが息子で千栄子が母親という設定のドラマだ。
『アチャコ青春手帖』の人気を受けてつくられた2作目はヒットに恵まれなかったが、3作目の『お父さんお人好し』は絶大な人気を博して、映画化もされた。同作で2人は夫婦役を演じているが、あまりにも自然だったために、本当の夫婦だと思われていたというエピソードもいくつか残っている。それほど、息がピッタリ合っていたのだろう。
今週は、ついにラジオドラマ『お父さんお人好し』がスタート。おっちょこちょいなお父さん当郎と、やわらかい大阪弁を使うしっかり者のお母さん千代の陽気な掛け合いを楽しもう。
(文=安倍川モチ子/フリーライター)