音楽業界の雄であるエイベックスが苦境に立たされている。2020年9月中間連結決算の最終赤字が32億円にも上り、40歳以上を対象に100人程度の希望退職を募集することを発表した。さらに17年に移転したばかりの東京・南青山の一等地に位置する本社ビルの売却話まで浮上している。
同社はこの報道に対して、「構造改革を進めており、その一環において本社ビルの売却を検討しているのは事実ではございますが、現時点で決定した事実はございません」と否定しているが、いずれにしろ厳しい経営状況に置かれていることは明白だ。
「今のエイベックスは、古き良き時代の音楽を純粋に愛する集団から変わりました。ダンスミュージックやトランスで実験的な音楽をつくっていたような冒険心は消え失せ、打算的な音楽を垂れ流すようになってしまいました。大量リストラも問題ですが、そういう会社のカラーが変わってしまったことが一番悲しいです。創業メンバーでも他社に移った人が少なくなく、その理由は音楽性の違いにあるという声も聞きます」(エイベックス元役員)
もちろん新型コロナウイルスによる音楽活動の自粛も影響しているが、より本質的な問題があると指摘するのは、同社の現役社員だ。
「18年から売り上げは年々微減でしたが、今期はガタ落ちの状況。来年度以降も厳しい数字になると予測されています。15年頃から構造改革を行い、VR(ヴァーチャル・リアリティ)やアニメ、デジタル部門への投資が進みました。さらにインフルエンサー事業の強化など、さまざまな新規事業に手を出してきました。しかし、いずれもうまくいっているとはいいがたいです。
やはり一昔前のような会社の“顔”となるアーティストが存在しないことが、企業としての求心力を落としています。実際にソニー・ミュージックやキングレコード、ワーナーのほうが勢いがあるし、世間的なヒットを飛ばしています。数字的には、いまだに業界トップクラスですが、それは複数の事業を合わせたもので、肝心の音楽に関してはジリ貧の状態が続いており、強い危機感を持っています」
ギャラが高い割に利益を出さないアーティスト
今春、同社の所属アーティストや松浦勝人会長兼CEOの薬物使用疑惑が取り沙汰された。その後、松浦氏はCEO職を離れたが、それでも強い影響力を保ち続けている。
「“松浦帝国”と揶揄されるほどで、松浦会長は社内でいまだに圧倒的な影響力を持っています。だから浜崎あゆみの『M 愛すべき人がいて』(小松成美/幻冬舎)が出版された時も、『週刊文春』(文藝春秋)に松浦会長の大麻疑惑が載った時も、特に社内で話題に上がることはありませんでした。ただ、沢尻エリカ、浜崎あゆみ、TRFなど、ギャラが高い割に利益を出さないアーティストを多数抱え過ぎです。本社ビルを売却する前に、ほかにできることがあるんじゃないかと思いますよ」(現役社員)
松浦氏の役員報酬は、14年には4億6000万円超、16年も3億8000万超で、18年にも3億円7500万円と計上されており、音楽業界の企業でもっとも高額な報酬を受けてきた。経営不振が顕在化した2020年3月期も、2億7500万円もの報酬を受け取っている。リストラの前に役員報酬をカットすべき、との声も聞こえてきそうだ。
「もちろん、そう思っている人はいるでしょうが、誰も声を上げられませんよ。ただ、松浦さんが多方面に影響力があり、周囲を抑え込めるパワーを持っているからこそ、会社が大きくなっていった面が大きいのは間違いありません。仮に松浦さんがいなくなると、会社は一気に傾くでしょう。今の音楽業界にほとんどいなくなった昔気質の人で、なんだかんだ言ってもカリスマ的な存在感があります。それに続いていく人というのは、イメージできませんから」(同)
気になるのは経営状況の改善の目と希望退職者がどれだけ出るかだが、予想よりも多くの人材が同社を去るとの見方が強いという。
「ウチはもともと、人の入れ替わりが激しくて退職者も多いのが特徴です。『激務で有名なエイベックスで働いていたのなら、使えるだろう』ということで、結果的にキャリアアップする人も多いんです。特に代理店への転職組は多いですね。規模でいえば、電通や博報堂といった企業への“栄転”も目立ちます。IT企業では楽天など、より大きな会社で重宝されている人もいます。
もともと給与水準は業界のなかでトップクラスですが、転職後も給料が落ちなかった人も多いです。ただし、それはあくまで若い世代に限定された話です。中年層での転職の数は少なく、今回の希望退職に関しては大きな波紋を呼んでいます。問題は、この希望退職により、会社が本来切りたい中間管理職ではなく、若手の人材流出が進みそうだということです。社員も斜陽産業であることをわかっているので、このタイミングで別業界へ、という声も聞こえてきています」
今後のエイベックスの動向についてスポーツ紙の芸能担当記者は、こう分析する。
「最後の砦でもある本社ビルが売却されるかは断言できませんが、危機的な経営状況にあることは間違いないでしょう。他社ほどアーティストの実験的な開拓を行わず、感覚が古いままでとどまってきました。不振の理由を端的にいえば、あぐらをかいていた面は否めません。今後は事業規模の縮小が予測され、採算がとりやすいプラットフォームなどの多角経営に注力していくのではないでしょうか」
転機に立たされたエイベックスに、起死回生の一手は用意できるのだろうか。
(文=編集部)