三菱ケミカルHDは病んでいる…赤字転落・大量リストラでも居座る小林会長の“本質”

 三菱ケミカルホールディングス(HD)の新社長にベルギー出身のジョンマーク・ギルソン氏(56)が就任することで話題になったばかりだ。総合化学大手で外国出身者が社長に就くのは初めて。異例尽くしのトップ人事から同社の強い危機感がうかがえる。越智仁社長(68)は会長にならずに引退する。

 社長を選ぶ過程も異例だったと伝わる。最終候補に社内3人、社外4人が残ったが、社外はいずれも外国人で社内候補にも外国人が含まれており、最初から外国人ありきだった。“社長面接”はZoomによるオンライン形式で行われた。指名委員会のメンバーは本人に実際に会っていない。社長交代は2021年4月1日付。田辺三菱製薬を完全子会社化し、経営に区切りがついたとして退任を申し出た越智・現社長は6月の株主総会後に取締役も退く。小林喜光会長(73)は留任する。

 指名委員会委員長を務める橋本孝之・社外取締役は日本IBMの出身。「ギルソン氏は我々が求める人材だった」と記者会見で述べた。「デジタル・トランスフォーメーション(DX)や地球環境問題への対応、ライフサイエンスで稼ぐという三菱ケミカルHDの基本方針を(ギルソン氏は)理解している」(橋本氏)というのだが、「オンラインの面接なら、なんとでも言える」(関係者)。

 居座りを決めている小林会長が「既存事業の持続性を疑い、ぶっ壊すことができるのは、しがらみのない外国人」と最終判断したというのだが、「既存事業の持続性を疑い、ぶっ壊すなら」まず隗より始めよで、小林会長が辞任して越智社長に会長のポストを譲るべきなのではなかったのか、との疑問が残る。

外国人社長には強烈な副作用

 日産自動車のカルロス・ゴーン、ソニーのハワード・ストリンガーの例も出すまでもなく、外国人の社長には副作用が大きい。

 今、強烈な副作用に悩まされているのは武田薬品工業だ。クリストフ・ウェバー社長のもと、外国人が主要ポストを占め、「武田薬品は、もはや日本の会社ではなくなってしまった」(武田薬品の元役員)。

 ギルソン氏は単独で三菱ケミカルHDに乗り込み、配下は連れてこないと約束したという話が喧伝されているが、「こんな約束、社長になれば、半年で反故にされる」(関係者)。

 合弁会社のトップとして日本での駐在経験があり、妻が日本人であることが安心材料となったというのだから、どだい変な人事なのだ。小林会長の権益を守りつつ、破壊する路線など、所詮ありっこないのだ。このトップ人事、1年以内に失敗するかもしれないから、6月に退任する越智社長を、なんらかのかたちでつなぎとめておいたほうがいい。日本人の社長適任者がいないというなら、なおさらだ。

赤字転落と希望退職募集

 三菱ケミカルHDは10月23日に異例尽くしのトップ人事を発表した。返す刀で11月4日、21年3月期に590億円の最終赤字に転落する見通しを公表した。傘下の創薬スタートアップの開発遅延や米アクリル樹脂原料の工場閉鎖で1000億円強の減損損失を計上する。

 創薬関連の減損は田辺三菱製薬が買収したイスラエルのスタートアップ、ニューロダームによる開発の遅延が原因だ。パーキンソン病治療薬の開発を進めていたが、計画よりも1年半の遅延が発生する見込みとなった。競合製品の開発状況からみて収益性が確保できないと判断。無形資産の「仕掛研究開発費」を845億円減損した。ズバリ言えば、このパーキンソン病治療薬はものにならないということなのだろう。開発の失敗である。

 世界シェア首位のアクリル樹脂原料「MMA」事業でも減損が発生する見通しだ。米テキサス州ボーモント工場を21年2月末に閉鎖し、100人以上の従業員を解雇する。生産量は年間13万トンで、三菱ケミカルの合弁会社を含めた生産能力全体の6%にあたる。この工場は1992年に稼働したが設備のトラブルが頻発し、MMAの需要低迷もあって閉鎖を決定した。今後は米テネシー州の工場に加え、コスト競争力のある中東などの拠点からの出荷で減少分を補う。工場設備の減損損失や工場の停止関連費用として240億円を見込んでいる。

 21年3月期の連結決算(国際会計基準)は、これらの減損が響き、最終損益が590億円の赤字に転落する。従来は490億円の黒字を予想していたから1000億円強、利益が下振れすることになる。

 三菱ケミカルHD傘下の事業会社、三菱ケミカルは50歳以上の管理職2900人を対象に希望退職を募ると、同時に発表した。10月に年功序列ではなく、職務に適性のある人を管理職に充てる「ジョブ型」の人事制度を始めたことに伴うものだと説明している。

 三菱ケミカルHDの伊達英文・執行役常務・最高財務責任者(CFO)は11月4日の記者会見で「50歳過ぎの方が年功序列でつけると思っていたのに(ポストを)若手にとられていく。忸怩たる思いをする人をサポートする」と希望退職募集の理由を語った。「社長はベルギー人、自分のポストは若造に奪われる。管理職の暴動が起こらないのが不思議だ」といった内部の“声なき声”があることをお伝えしておく。

 希望退職の対象は50歳以上かつ勤続10年以上の管理職。定年後に再雇用された人を合わせて2900人いる。募集人数は定めていない。12月に募り、21年3~6月末に退職する。最大50カ月の賃金を上乗せするとしており、100億円の費用を見込む。何人辞めるかにもよるが、100億円ではまったく足りないのではないのか。

 伊達英文CFOは「活力の高い会社にしたい」と狙いを語る。「主体的に自分のキャリアを決めてほしい。ご賛同いただけない方には、転身を支援する」「入社した時はそうじゃなかった、という人のミスマッチを金銭的に解決する」と明快に述べた。これは、CFOが会見で言うべきことなのか。「CFOの則を超えている」との強い批判がある。管理職の人生にかかわる重大なテーマである。代表権を持った役員が説明する事柄なのではないのか。キャリア支援会社を紹介して、それをサポートというらしい。

 確かにコロナ禍、業績の低迷に苦しむ企業は抜本的な事業構造改革の必要性が一段と増している。でも、首を切るにも、情が必要なのではないのか。私は評論家みたいな言い回しで、横文字を多用することが目立った小林喜光という経営者の本質に疑いを持っている。トップ人事(外国人社長の登用)や管理職の首切りなど一連の人事でその感を深くした。小林喜光会長自身が、これらの問題について肉声で語るべきではないのか。

 三菱ケミカルHDは病んでいる、と言わざるを得ない。

(文=有森隆/ジャーナリスト、一部敬称略)