ディズニー話題映画『ムーラン』、世界的“ボイコット運動”拡大…主演女優が中国擁護発言

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、世界中で映画公開延期の動きが広まるなか、劇場公開より先行してインターネット配信に踏み切る動きも広まりつつある。

 今年夏の注目作だった映画『ムーラン』も、製作元の米ウォルト・ディズニーが米国での劇場公開を断念し、同社の動画配信サービス「Disney+」上で配信すると発表。9月4日から世界で配信がスタートした。

「“コロナのせいで映画館での上映ができないなら、ネット上で配信すれば済む話では”と思われるかもしれませんが、そうすると映画館サイドは大打撃を受けるわけです。これまで映画製作と映画館という業界は、それこそ映画というものがこの世でメジャーになって以降、長きにわたり共存共栄でやってきたわけで、どんな事情があろうとも映画製作業界側が簡単には“劇場公開をやめてネット配信に切り替えます”とはいえないわけです。

 実際に米大手スタジオのユニバーサルが新作映画をネットで先行配信したことで、大手シネコンチェーンがユニバーサルの作品を上映しないと宣言して大問題になっています。今回、ディズニーが世界的に注目作の『ムーラン』を自社の配信サイトで配信するというのは、それこそ“事件”ともいえるのです」(映画業界関係者)

『ムーラン』は1998年公開のアニメ版をリメイクした実写版であり、主演は中国出身で米国籍の女優、リウ・イーフェイ(劉亦菲)が務めているが、リウの発言がきっかけで“鑑賞ボイコット”の動きが中国から世界に広まる事態が起きている

 事の発端は一つの投稿だった。昨年以降、香港では民主化デモが起こり、中国政府の意向を受けた香港警察が武力で弾圧を続けている。香港は民主化運動を取り締まるために香港国家安全維持法を制定し、8月以降、民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)や中国に批判的な論調で知られる「蘋果日報(ひんかにっぽう/アップル・デイリー)」の創業者の黎智英氏などを次々と逮捕するなどして、国際問題に発展している。

 こうした緊迫した情勢下であるにもかかわらず、リウが中国版ツイッターのウェイボー(微博)に「私は香港警察を支持します。誰に批判されても構いません。香港は、なんて残念なことなのでしょう」と投稿していたことが発覚したのだ。

 これを受け、香港を起点としてネット上でリウへの批判は強まり、世界的に“鑑賞ボイコット”の動きが強まりつつある。たとえば、香港の民主活動家ジョシュア・ウォンは今月、ツイッターに次のように投稿している。

「この映画が今日、配信されました。ディズニーが中国政府に取り入っていることや、リウ・イーフェイが公然と、そして誇らしげに、香港警察の暴力を支持していることから、人権の正当性を信じるすべての人たちに対し、本作のボイコットを呼びかけます」

ハリウッド映画産業と中国政府

 こうした動きの背景について、映画業界関係者はいう。

「外資規制が強い中国において、2016年に上海にディズニーランドが開業するなど、ディズニーは中国にいち早く進出し、中国政府と蜜月関係にあるコンテンツ企業として知られています。中国ではまだDisney+の提供は開始されていませんが、『ムーラン』は中国では劇場公開が決まっています。

 Disney+と同じくネット配信大手のNetflix(ネットフリックス)も、数年前に中国のネット配信会社とコンテンツのライセンス契約を結び、事実上、中国市場に進出しており、中国語コンテンツの制作・配信を増やしています。

 さらに、ハリウッドをはじめとするアメリカのメジャースタジオ製作の作品も、その多くが中国で公開され、アメリカのエンタメ産業・コンテンツ産業は今、巨大な人口を抱える中国市場を開拓しようと躍起になっています。

 こうした米国資本の動きは、香港市民のみならず中国政府による人権弾圧を問題視する世界の人々から“ビジネスのために中国に取り入っている”と受け止められる。そのため、今回のようにハリウッド側の人間が、中国政府による人権弾圧を正当化するかのような発言をすると、“ボイコット”という過敏な反応を呼ぶのでしょう」

 また、別の映画業界関係者はいう。

「世界から中国への映画コンテンツ輸出の大きな風穴を開けた記念碑的な作品は、1987年に公開された中国やアメリカなど5カ国合作の『ラストエンペラー』(ベルナルド・ベルトルッチ監督)です。本作は海外作品としては初めて中国政府の協力を得て、中国本土で大規模なロケが行われましたが、ジェレミー・トーマスという英国人の敏腕プロデューサーだからこそ成し得た、まさに奇跡といっていい偉業です。

 これ以降、徐々に海外の映画作品が中国に進出するようになった一方、中国映画の世界への進出が始まりました。とくにここ数年では中国系資本がハリウッド映画にも入り、ハリウッド側が中国での公開のために中国政府による検閲を通るために“自己検閲”を強めているのではないかと問題になりつつあるんです。

 今回リウの発言が大騒ぎとなっている背景には、そうした米中の映画と政治にからむ非常にセンシティブな問題が横たわっていることも、あるのではないでしょうか」

 果たして『ムーラン』へのボイコット活動は、ますます広まっていくのだろうか。

(文=編集部)