接客に携わっている方が、客として訪れたお店に対して特別な感情を抱いてしまう事は、よくあると思います。
例えば、飲食店で働いている方であれば、「接客はこうした方がいいのに」「盛り付け方がいまいち」など、サービスに対する評価が辛口になってしまう事もあるでしょう。
それはパチンコ店においても同様です。私がホール店員だった頃も、つい他店の接客態度や遊技台の清掃などに目が行ってしまい「適当な接客だな」「もっとこうした方がいいのに」などと考えてしまう事もございます。
職業柄そういう点が気になってしまうが故に、そう感じられるような「意識の低いホール」には極力いかないようにしていたのです。
意図的に「スタッフの意識が高いホール」を選んでいたので「素晴らしい接客」を受けながら気分よく遊技を楽しめる事ができていたのですが…。
そんなお店でも、常に満足のいく接客ができるわけではありません。時に「もどかしい対応」を受ける事もございます。
今回は、私がお客として体験した「パニックに陥ったホール店員」のエピソードをご紹介しましょう。
一般的に、遊技している際「玉やメダルが出ない」「台がエラーになって打てない」などの状況に陥った場合は、ホール店員を呼び出して対応してもらうと思います。
私がパチスロを打っていたある日、ホッパーエラーが発生してメダルが出てこなくなりました。ホッパーとは、払い出されるメダルを台の中で貯め込んでおくタンクのようなものです。
ホッパーの底にあるモーターが回転する事によって、メダルが払い出される仕組みとなっております。私は「ホッパーに異物が混入してエラーになったのかな」と、エラーの原因を考えながらホール店員を呼び出したのです。
お客様を待たせないように、呼び出された台に向かって小走りで向かってきた男性スタッフ。「お待たせしました!直ちに対応しますので!」とハキハキとした口調で対応する様は、まさに接客のお手本ともいうべきものでした。
テキパキと台を開け、慣れた手つきでホッパーを調べるスタッフを見て「優秀な店員さんだなあ」などと感心していたのですが…。
待つこと約5分、いつまで経ってもエラーが改善される気配はありません。爽やかな笑顔を見せていたスタッフの表情は、一変して不安を隠せず神妙な面持ちへと変わっていったのです。
原因が分からない焦りからか、尋常じゃないほどに発汗しており、私に対して「すみません、少々お待ちください」と何度も言ってきたのでした。
横目でホッパーの具合を伺っていた私は、エラー対処法が大体わかっておりました。ただ、客に「こうしろ」と指摘されたら、ホール店員としてのプライドに傷を付けてしまうと考えて口を出さなかったのです。
しかし、さすがに限界でした。10分が過ぎてもエラーは直らず、他のスタッフが手助けに来る様子もなかったので、「まずホッパーのメダルを取り除いて台から取り外してください」と指示を出したのです。
最初は「素人が何を言っているんだ」という感じで露骨に嫌な顔をしておりましたが、藁にもすがる思いだったのでしょう。「分かりました」と指示に従ってくれたのでした。
次に私は「底の方に異物が詰まっていると思うので、ホッパーの止め具を解除して取り除いてください」と伝えました。最初は戸惑っていた彼も、具体的な指示内容を聞き信憑性を感じたのでしょうか。「やってみます!」と力強い返事をして、私のレクチャーを頼りに作業を始めたのでした。
ホッパーの分解が終わり、底の部分があらわになりました。そこにはメダルの払出を邪魔するように小さなネジが混入していたのです。「ああ!これが原因でしたか!」と、スタッフは嬉しそうにしておりました。
「実はホッパーを分解した事がなくて困っていたんです」「いい勉強になりました。ありがとうございます」と言いながら、何度も頭を下げるスタッフ。私は「覚える事が多いと思いますが、頑張ってください」と労いの言葉をかけて遊技に戻ったのです。
客の立場でスタッフに指示するのは、あらぬ誤解が生まれてしまう事もあるかもしれません。ただ、この時ばかりは正義の味方のような気分になれたエピソードでした。
トラブル対応のスキルが上がり一皮むけ、どことなく自信に満ちた表情をしていた彼の姿を今でも思い出します。
(文=ミリオン銀次)