『半沢直樹』が好調だ。
TBS系の日曜劇場(日曜夜9時枠)で放送されている本作は、東京中央銀行のバンカー(銀行員)として働く半沢直樹(堺雅人)の派閥内闘争をめぐる物語だ。
2013年に放送された前作は、最終話で平均視聴率42.2%(関東地区)を叩き出したメガヒットドラマ。7年ぶりの続編となった本作の初回平均視聴率は22.0%(同)、その後も順調に数字を伸ばしており、第3話は23.2%(同)を記録。コロナ禍の影響でテレビ全体の視聴率が微増していることを差し引いても、本作の注目度は日々高まっており、前作の勢いはいまだ衰えずといった感じである。
原作は池井戸潤の小説『半沢直樹』シリーズ。今回のドラマ版では、シリーズ第3作目の『ロスジェネの逆襲』と第4作目の『銀翼のイカロス』が映像化される。
常務の大和田暁(香川照之)の不正を暴き、土下座させたことの代償として、子会社の東京セントラル証券に営業企画部長として出向していた半沢は、大手IT企業の電脳雑技集団から依頼されたIT企業・スパイラルの敵対的買収をめぐって、親会社の東京中央銀行と対決することになる。
今度の敵は、大和田の部下だった証券営業部長の伊佐山泰二(市川猿之助)。失脚した大和田から副頭取の三笠洋一郎(古田新太)に乗り替えた伊佐山によって、半沢は追い詰められるのだが、子会社の利益を親会社が奪うという不毛な争いは、なぜ味方同士で潰し合ってるんだ? と思わず苦笑してしまう。しかし、この不毛さこそがリアルで、今の日本が抱えるダメなところがすべて集約されているように感じた。
『半沢直樹』が画期的だったワケ
『半沢直樹』は日曜劇場の作品としても、テレビドラマとしても画期的な作品だった。以前にも、池井戸潤の企業小説はいくつもドラマ化されていたが、NHKの土曜ドラマ枠やWOWOWで放送されたため、シリアスな社会派テイストに仕上がることが多く、どちらかというと、玄人好みの渋い大人向け作品という扱いだった。
しかし、『半沢直樹』のメガヒットによって状況は一転する。今や池井戸潤作品は必ず映像化されるドル箱小説で、映画やドラマに欠かせない存在となっている。
『半沢直樹』と過去の池井戸潤、映像化作品は何が違ったのか? 半沢以前の作品が大人向けのリアルな社会派作品だとしたら、半沢以降の池井戸潤ドラマは、中年男性を中心に誰もが楽しめる痛快娯楽活劇だ。銀行や大企業内での派閥戦争、あるいは町工場の特許技術にまつわるリアルなディテールはあくまで表層で、中心にあるのは巨大な権力に追い詰められた弱者たちの逆転劇。この勧善懲悪のはっきりした姿勢は、まさに現代の時代劇である。
チーフ演出の福澤克雄はそのことに自覚的で、2013年に『半沢直樹』をドラマ化した際には、黒澤明の時代劇映画『用心棒』のような活劇にしたかったとインタビューで語っている。
演出も硬派でありながらケレン味たっぷりで、役者の表情を魅力的に撮ることに定評がある。中でも、悪役を演じるおじさん俳優の演技はとても濃厚だ。それは今作でも健在で、香川照之、市川猿之助、尾上松也、片岡愛之助といった歌舞伎俳優が多数名を連ねていることもあってか、一部では“半沢歌舞伎”と呼ばれており、彼らの濃厚な芝居を観ているだけでも楽しめる。
古臭さが映し出す、今の日本の現実
だが、これだけのメガヒット作ゆえに批判も多い。特に今回はIT業界が舞台ゆえに、PC関連のディテールの甘さを嘲笑する声が多い。そして、過去作から大きな批判の的となっているのが銀行員たちの描写で、派閥争いに呪縛された彼らに対して「昭和のサラリーマンかよ?」と揶揄する声は少なくない。
確かに筆者も前作のときは同じような印象を抱き、「なんでこんな古臭い物語にみんな熱狂しているのだろう?」と、若干醒めた見方をしていた。しかし、あれから7年たって思うのは、むしろ、この会社組織に執拗に固執する『半沢直樹』の古臭さこそが今の日本の現実なのではないかと、思い直すようになった。
それくらい日本は村社会で、先進国ではないのだ。それはコロナ禍に起きている政府の無策ぶりを見ていると、より強く実感する。政府の判断は遅く、実行力もない。良かった政策は10万円の定額給付金ぐらいで、あとは役に立たないマスクを配ったり、お魚券、お肉券といった特定の団体を優遇するためだけに割引クーポンを発行しようとして頓挫し、挙げ句の果てには「Go To トラベル」だ。
自粛によって減った感染者数は、政治の無策によって再び増加している。ろくな補償もせずに自粛要請ばかりする政府と、点数稼ぎの派手なパフォーマンスで政権批判をする東京や大阪の知事たちのいがみ合う姿を見ていると、『半沢直樹』で出世のために足を引っぱり合っている行員たちの姿と重なって見えてしまう。
そんなグダグダの状況が続いているからこそ、せめてドラマの中だけでもスカッとしたい人がたくさんいるのだろう。『半沢直樹』がメガヒットしている背後には、そんな底の抜けた現実があるのだ。
(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)