現在、パチンコ店のセキュリティシステムは非常に厳重なものとなっており、「ゴト行為」などの魔の手から身を守る万全な体制が整えられております。
防犯カメラはホールの至る所に設置され、遊技台は簡単に開かないようにワイヤーでロックされております。不正な電波や振動にも敏感に反応しますので、不届き者の存在を察知できる役割を果たしているのです。
それだけではございません。ホール内には至る場所が鍵で施錠されております。遊技台は当然ながら、サンドや島、メダルや玉が入っているタンクなどの様々な箇所がロックされているのです。
遊技台などに鍵が掛かっていなければ、メダルや玉が「貸出」以外の手段で簡単に手に入ってしまい、ホールは無法地帯となってとても営業などできません。それだけ鍵は重要な役割を担っております。
要所すべてを施錠することによって、必然的にスタッフが身に着ける鍵の量は非常に多くなります。あまりの多さに、新人スタッフが種類を覚えるのに苦労するのはお決まりのパターンです。
無論、鍵は「セキュリティの生命線」ですので、すぐに新人スタッフが身に着ける事はなく、ある程度仕事を覚えた段階で貸与されるのが一般的だと思います。万が一鍵を失くしてしまったら、それこそホール営業の危機に直面する大問題となりますから…。
では、もしスタッフが鍵を失くしてしまった場合、どのような問題が生じるのでしょうか。実は、私がホールに勤めていた頃、スタッフが鍵を失くして大慌てとなった事が何回かありました。
今回は、その中でも特に印象的だったエピソードをご紹介いたします。
あれは忘れもしない2年前の春の出来事でございました。その日は遅番で、夕方から閉店までの業務を行っており、稼働も落ち着いていてゆったりとした時間が流れていたのです。お客様からの呼び出しもあまりなく、「暇だなあ」なんて思いながらバックヤードの清掃をひたすら行っておりました。
時刻は21時を過ぎ、遊技を終えて帰るお客様が増えてくるタイミングで、私はホールへと戻りました。ジェットカウンターにてひたすらメダルを流していた時、他のスタッフから一番耳にしたくない報告がインカムを通じて流れてきたのです。
「すみません。台の鍵をなくしました…」
報告を聞いたホール責任者は慌てた様子で「手の空いてるスタッフ全員で鍵の捜索をお願いします。私は鍵を失くしたタイミングをカメラで確認します」と言いました。
当然ながら、スタッフは鍵をキーチェーンやフックで固定して携帯しておりますので、簡単には落としたりすることはありません。考えられるとすれば、フックの金具が歪んで隙間が生じ、そこから鍵が抜け落ちた可能性があります。
「マジかよ」と心の中で思いましたが、それは他のスタッフも同じだと思います。なぜなら、鍵を失くしてしまった場合は、見つかるまでひたすら鍵の捜索を行わなくてはならないからです。もし見つからなかった場合、店にある台の鍵全てを新しいものへ交換しなくてはなりません。
更には、遊技台の鍵穴シリンダーを新しい規格に変える必要が出てきます。数百台分のシリンダーを交換するとなると…考えるだけで頭が痛くなってしまいます。次の日の営業はまず不可能でしょう。
私も必死になって鍵を探しましたが、いくら探しても見つかる気配はありませんでした。当事者のスタッフに心当たりがないか聞いてみましたが、完全に精神が崩壊しており「すみません…わからないんです…」と泣きじゃくって話になりません。
私は「お前がそんなんじゃ見つかる物も見つからないじゃないか!」と喝を入れて奮い立たせました。このまま「見つかりませんでした」ではシャレにならないだけに、スタッフ全員が必死でした。休日だった店長も鍵の捜索のために店に来るほどの大問題です。
誰もが話す事もなく真剣に探し回ったのですが…。結局、閉店時間になっても鍵は見つかりませんでした。勤務時間が過ぎてしまいましたが、事態が深刻なだけに閉店後もひたすら鍵の捜索を続けたのです。
時が経つにつれ、他のスタッフにも焦りの色が見え始め「これ、マジでやばいよね」「明日の営業どうなるんだろう」と不安を隠せない様子でした。当事者のスタッフも顔面蒼白となっており、もはや声を掛けるのも躊躇する程に落ち込んでおりました。
もはや成すすべなく「最悪の事態」が頭によぎったのですが…。カメラ確認をしていたホール責任者から「○○さん(当事者)が営業中に外へ点検に行ってるから、全員で店舗周りを探してくれ」と指示があったのです。
時刻は閉店時間を過ぎた真夜中です。外は暗くて鍵があったとしても「見つけられないのでは」と思いましたが、そんな事を言っている場合ではありません。事務所にある懐中電灯を持ってすぐさま外へ向かおうとしたその時でした。
事務所の椅子の下に「見覚えのある鍵」がポツンと一個落ちているではありませんか!!
それは紛れもなくスタッフが失くした台の鍵でした。絶望に打ちひしがれていた私のテンションは瞬く間に最高潮へと辿りつき、天にも昇るような高々とした声で「鍵がありました!」とインカムで叫んだのです。
「おおおお!」「よくやった!」と歓喜するスタッフ。店長からは「さすがはうちのエーススタッフだ!」と労いの言葉をいただきました。誰よりも責任を感じていた当事者のスタッフは泣きながら「ありがとうございます、ありがとうございます」と、何度も頭を下げておりました。
灯台下暗しとはまさにこの事でしょう。どうやら事務作業で椅子に座っていた際にポロリと鍵が落ちてしまったみたいです。ホール内を必死で探すあまり、事務所の捜索はおろそかになっていたのかもしれません。
最終的に見つかったから良かったものの、もしこのまま鍵が出てこなかったら…。そう考えると今でもゾッとします。本当に見つかってよかったです。あの時に感じた安堵感とも違う異常なまでの高揚感は今でも忘れられません。
それだけパチンコ店において、鍵が重要な役割を果たしているという事なのです。
まずあり得ないとは思いますが、スタッフがホールで鍵を落とす姿を目撃した際は、拾って届けてあげるといいかもしれません。きっと泣いて喜ぶと思いますよ。
(文=ミリオン銀次)