7月6日、新番組『有田プレビュールーム』(TBS系)が約3カ月遅れでようやくスタートした。同番組は「芸能人たちが熱のこもったVTRを持ち寄ってプレゼンし、MCの有田哲平らが『今後もシリーズ化するか』をジャッジしていく」という番組。
有田は「芸能人たちのVTRをプレビューし、ジャッジしていく」という立ち位置なのだが、冷たく突き放したり、受け入れて泳がせたり、鋭くダメ出ししたり、突然絶賛したり……多重人格者のようなトークを駆使して、ゲストの芸能人たちにスポットを当てていた。
ただ、このように芸能人たちをプロデュースする有田の姿は、すでに「単独出演時の定番」と言っていいだろう。有田は『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)、『有田Pおもてなす』(NHK)、『有田ジェネレーション』(TBS系)で、「芸能人たちにさまざまな角度からスポットを当てて笑いを引き出す」という独特のMCを見せている。昨年、『全力!脱力タイムズ』でアンタッチャブルの復活を後押ししたこともあって、業界内では「大物感が漂ってきた」という声も少なくない。
ビートたけし、タモリ、明石家さんまのお笑いBIG3とも、ダウンタウンやウッチャンナンチャンとも違う。ボキャブラ時代の盟友・爆笑問題やネプチューンとも違う。さらに言えば、「芸能界屈指の司会進行」と言われる相方・上田晋也のフォローがなくても笑わせられるなど、くりぃむしちゅーとしての活動中とも違う姿を見せている。なぜ、有田はここまで支持される存在となったのだろうか。
“圧”がなく、上から目線を感じない
有田を見ていて感じるのは、MCという番組の権力者が持つ“圧”のなさ。出演者たちへの上から目線を感じさせず、たとえば「やれ」ではなく「やってもらえますか」という丁寧語を使うことも多い。「悪ノリしているときほど丁寧語で下から目線を使っているのではないか」と感じてしまうくらいだ。
また、有田自身、「誰よりもくだらないボケを放って権力者のイメージを抱かせない」という振る舞いもクレバー。この点で、どこか体育会系のノリを感じさせる先輩芸人MCたちとは決定的に異なり、その振る舞いはハラスメントに敏感な人が増えた現在の世の中に合っている。
私自身、何度か収録現場を取材し、『全力!脱力タイムズ』では全力解説員のひとりとして隣に座ったことが二度あるのだが、有田は終始落ち着いた佇まいで「作り手の意図を踏まえつつ、笑いの最適解を考えながら進行していく」という職人肌の印象を受けた。
だからこそ時折思わずこぼれる笑顔に、番組や出演者への愛情を感じてしまう。『全力!脱力タイムズ』『有田Pおもてなす』『有田ジェネレーション』は、いずれも現在ごくわずかとなったお笑い純度の高い番組であり、出演者たちは必ずしも売れっ子ではない。つまり、「笑いを追求した番組を、有名無名を問わず多くの芸能人たちに門戸を開いている」のだろう。
そんなスタンスだからなのか有田の番組は、どれも「テレビというより劇場公演を見ている」という印象がある。もっと言えば、『全力!脱力タイムズ』も、『有田Pおもてなす』も、『有田ジェネレーション』も、番組全体が1本のロングコントにすら見えるのだ。それは有田がそつなく進行をこなすタイプのMCではなく、番組制作に向き合うタイプのMCだからではないか。
初回2時間SPの視聴率はわずか3.9%
このところ芸能人にもスタッフにも若手が台頭し始めている上に、彼らのなかには「純粋なお笑い番組をやりたい」という志向の人も多いという。それだけに両者といい距離感でコミュニケーションが取れるMCとして有田の存在は大きく、バラエティにおける令和時代のキーマンになっていく可能性は高いのではないか。
しかし、そんな有田に思わぬ危機が訪れている。6日に放送された『有田プレビュールーム』初回2時間スペシャルの世帯視聴率は3.9%と断トツの最下位。TBSの他番組が放送された前4週平均も5.6%とかなり低かったのだが、それを大きく下回り、即打ち切りが検討されかねない結果に終わってしまった。
もちろん冠番組とはいえ、有田の責任とは言えず、最大の原因は放送内容にある。放送されたのは、「霜降り明星・せいやがアグネス・チャンの魅力を伝える」「ミキ・亜生がテレビで見たことがない猫の動画を撮る」「藤田ニコルが美少女を撮る」「ティモンディ・高岸がイチローの神業に挑戦」「EXIT・兼近がラーメンの新たな魅力を伝える」「高嶋ちさ子が超高級物件を見に行く」の6本。こうして文字で見ても、「普通」か「微妙」という印象を受けるのではないか。
皮肉なことに、これらのVTRが流れているときより、その前後のスタジオトークのほうが大いに盛り上がっていた。これこそが有田のトークスキルであり、「それをもってしても、今回の内容は厳しかった」ということだろう。
気になるのは、これらのコーナーすべてに「シリーズ化」のゴーサインを出してしまったこと。初回ならではの大盤振る舞いだったのかもしれないが、あの世帯視聴率を見たら「同じ企画を放送しよう」と思えないはずだ。
「コロナ禍でなかなかスタートできなかった」という不運があったのは間違いないが、壊滅的な数字だけに、ここからどう立て直していくのか。令和時代をリードしていくであろう有田の意地に期待したい。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)
●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。