採用でAI活用が本格化、就活の新常識…今、企業が“本当に採用したい”人材像

 2019年も残りわずか。年が明ければ東京五輪イヤーとなることもあって、現在は関連業界の労働力は重宝されている。国内経済的にも五輪までは大きな災害でもない限り、景気が極端に落ち込むリスクは少ないという見方もある。しかし、五輪後となれば話は別。数カ月後には新就活生が積極的に就活を始める時期になるということで、今回は五輪後の景気を見据えた就活と労働のあり方について、立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に話を聞いた。

自分で自分の適性を決めつけすぎるのは危険

 有馬氏は五輪後の景気についてこう分析する。

「確かに来年のオリンピックまでは国全体で目的が共有できていますが、五輪後は向かうべき方向性が明確に示されないと消費が減退しやすくなります。しかも、増税や将来の収入減を考えて、“明日への備え”といった思考方法で今日の消費を手控える人々が多くなってしまうと、社会にお金が回らなくなってしまいます。その結果、モノが売れずに企業の売り上げが増える期待がなくなり、経費削減が意識されるようになりますと雇用も小さくなりやすくなるのです」(有馬氏)

 社会不安による国民心理だけではなく、テクノロジーの発展も就活生や労働者の逆風になるそうだ。

「就活に際し求職者は、かつては手書きで履歴書などを準備しなければならず、受ける側の準備にかかる労力が大きな時代がありました。しかし、昨今はメールやインターネットサイト上からのエントリーが容易になり、多くの企業を手軽に受けようとする学生が増えています。その結果、企業側も履歴書、エントリーシートの段階で面接にまで進める人材を選別するのもかなりの負担になりました。そこで、企業の採用活動にAI(人工知能)を利用する動きがみられるようになってきました」(同)

 エントリーシートの特定のキーワードなどを検索して就活生を絞りこんだり、面接もネット環境でAIによって実施したりする企業は増加傾向だ。しかし、「標準的社会人基礎力はAIで判断できても、人的な魅力は人間にしか評価できず、最終面接までAIになされる時代は、まだ遠い未来でしょう」と有馬氏。では、どのような人材が、雇用の縮小するこれからの時代で、企業がコストを支払っても雇いたいと思えるのだろうか。

「社会人基礎力は前提ですが、受ける会社の雰囲気や文化に本人の性格があっていることはAIでは判断しづらい魅力になると思います。端的にいえば『一緒に働きたい』と思ってもらえることです。例えば、好奇心があり、ニュートラルに何にでもチャレンジできる柔軟性は、多くの企業で新人に求められる素養です。就活の段階ではこうした個性をいかにアピールできるのかが重要でしょう。反対に、自分で自分の適性を決めつけすぎると、他の仕事を与えた場合に退職されてしまうリスクを考えて、雇用する側は躊躇しやすくなると思います」(同)

言われたことだけをやる人材を企業は欲していない

 会社に入れば専門職採用でもない限り、部署異動といったジョブローテーションは必須なので、スタートから自分で間口を狭める姿勢は、企業にとって印象はよくないということだろう。そして、いざ社会人として世の中に出たときの心構えを有馬氏はこう話す。

「言われたことをただ行うだけでは、企業にとって有用な人材とは言えないでしょう。仕事を覚えるまでは言われたことを間違わずに実行できることが大切ですが、それ以降は自分の創意工夫を付け加える用意が常にあることが重要です。職場において機転が利く行動をするには、確かにセンスも必要ですが、起こることを想定して何を求められるのかを事前に予想できる思考力が求められます。臨機応変な対応ができれば、小さなトラブルならばある程度補うことが可能ですし、使う立場の上司も安心して仕事を任せることができると感じてくれるでしょう」(同)

 最近はブラック企業の社会問題などにより、全体として経営者などの企業サイドよりも労働者の立場が強くなっているが、これを笠に着て「働いてあげている」という意識の労働者が増えては、会社も社会全体も停滞してしまうだろう。

「長い拘束時間やサービス残業、休日出勤は見直されてしかるべきですが、『会社にいる時間だけが自分の仕事なのだから、後のことは知ったことではない』というスタンスの社員は企業にとって魅力的な人材とは言えません。オフの時間にもビジネスのヒントを探るような心の余裕があると、与えられた仕事も別角度から眺められると思います。これから社会へ向けて一歩を踏み出す就活生たちは単にマニュアル化されたスキルを磨くだけではなく、仕事を通して“自分らしさ”を伝える工夫を意識してほしいですね」(同)

 現状、就活戦線は「売り手市場」と言えるかもしれない。だが、社会に出ていつまでもゲスト扱いされるわけではない。来るべき雇用縮小に向けて、今のうちに自分自身に労働者として、人間として魅力を付与する意識を持つことが大切なのだろう。

(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)