軽の日産デイズ/三菱eKクロスに驚愕、もはや普通車並み…ホンダN-BOXを脅かす

ホンダ・N-BOX

 今、日本の軽自動車がすごいことになっている。販売台数面はもちろんだが、乗用車の実力としても相当高くなっているのだ。

 皆さんは軽自動車というと、どのようなイメージをお持ちだろうか。昭和生まれの方なら、軽自動車はホンダN360やスバル360などに代表されるようなコンパクトでチープな乗用車か軽トラックなどの商用車だろう。なかにはスズキ・ジムニーやフロンテ・クーペといった個性的なモデルに実際に乗っていた方もいるかもしれない。

 平成生まれなら、免許を取得し最初は小さくて運転しやすそうな軽自動車の購入を考えてみたり、地方住まいなら一家に一台ではなく一人に一台というほど生活必需品として軽自動車と深く付き合っているのかも。

 軽自動車は日本にしか存在しない日本独自のカテゴリーであり、それはまるでガラパゴス島の爬虫類のように独自の進化を果たしてきた。その進化の度合いは近年特に顕著であり、完成度が飛躍的に高まっているのだ。

 アメリカの某自動車メーカートップが来日した際に日本の軽自動車に試乗し、そのあまりの出来の良さに舌を巻く一方、軽自動車の存在こそがアメリカ製自動車が日本で売れない要因であり、非関税障壁として自動車税が1万800円と格安な軽自動車規格をやめさせるべきだと米国政府に訴えたとも聞く。

 日本自動車販売協会連合会(自販連)が毎月発表している車種別新車登録販売では、トヨタのプリウスやアクアといった燃費性能に優れるハイブリッド車(HV)が常にトップをキープし続けている。しかしそれは登録車の話であり、軽自動車まで統計の枠を拡大し全国軽自動車協会連合会(全軽自協)のデータを加えてみると、ここ数年はホンダN-BOX(軽自動車)が販売台数トップに君臨しているのがわかる。

 自動車は売れれば売れるほど次期モデル開発の予算が拡大する。それで新技術や高価な装備が採用され、さらに完成度が高まり販売面が強化されるというプラス効果が生まれる。

 N-BOXは、販売面でトヨタの2強に独走され苦境に陥っていたホンダが、人気大衆車シビックを開発するのに匹敵するほどの開発予算をつぎ込み完成させたという。少し売れたくらいでは元の取れないギャンブル的なモデルだったのだが、見事に的中させ現在の成功に導いたのだ。

 その半面、ホンダのディーラーに来訪するお客はほとんどがN—BOXを指名買いしていき、本来の利益頭であるシビックやフィットが売れなくなってしまったという負の一面もあり、諸手を上げて喜んでばかりもいられないのだという。

 N-BOXの成功は、競合する軽自動車販売他社にも大きな刺激を与えた。他社もスーパーハイトワゴンのパッケージングや左右電動スライドドアの採用など、人気の理由となったアイテムを次々と採用し追従している。

 しかしN−BOXの成功の理由はそれだけではない。動力性能やハンドリング、乗り心地や快適性、質感など実際に走らせてみないとわからない走行性能面で、N-BOXは普通車クラス以上の仕上がりを実現しており、軽自動車専門メーカーがそう簡単に真似できるレベルのものではない。

日産デイズ

三菱eKクロス

日産デイズ三菱eKクロス


 そんな状況のなか、平成時代最後となる今春に発表・発売され注目されているのが日産デイズ/三菱eKクロスの新型軽モデルだ。なぜこの2台を併記したかというと、この2車は実は同じ車だから、だ。正確にはアライアンス関係にある日産自動車と三菱自動車が共同出資し設立したNMKV(日産 三菱 軽 ビークル)社が企画から設計、開発までを請け負い、三菱自の水島工場で生産される。

 NMKVの設立は2011年まで遡るが、設立当時から近年までは軽自動車の開発や生産、販売で実績のある三菱自が主体的に開発を行い生産していた。しかし今回の新型モデルから日産に開発の主導権が移ったことで注目を集めることとなったわけだ。

 軽自動車を独自に開発したことがなかった日産が企画し開発するということは、ホンダがN-BOXを成功に導いたような割り切りの良さ、コストマネージメントが期待されるのだ。



 実際、新型日産デイズ/三菱eKクロスに試乗してみて、軽自動車規格離れした装備や仕様に驚かされる。両モデルはパワートレインも車体もシャシーも共用していて、異なるのはフロントマスクのデザイン程度だが、中味の進化がすごい。エンジンはガソリンのターボとノンターボが設定されているが、どちらもマイルドHV仕様(最廉価モデルはノンHV)となっていてリチウムイオンバッテリーが搭載されている。


 通常発電機として使用されるジェネレーターを駆動モーターとしても活用する仕組みで、最大20Nmのトルクを駆動アシストできる。アイドリングストップももちろん作動し再始動はこのモータージェネレーターで行い、その都度セルモーターが回転する音や振動から解放された。


 リチウムイオンバッテリーは運転席下に格納されていて、これはガソリン廉価モデルでも採用されており、各部電動モーターやエアコンなど電装品への給電に役立てている。パワーステアリングも電動で直進状態がしっかり再現できるアシスト制御が施され高速直進性にも優れているのだ。


 また、デイズには日産が得意とするアラウンドビューモニターが採用され、eKクロスにはデジタルインナーミラーが採用されるなど最先端の装備も備わる。軽自動車として初となる渋滞時停止から再発進まで前車に追従可能なオートクルーズコントロール(ACC)つき運転支援機構プロパイロット(三菱名・マイパイロット)も用意されている。

 前席左右にシートヒーターが備わり、後席の足元スペースは日産の最上級セダンであるフーガより広く荷室の使い勝手も良い。N-BOXのようなスーパーハイトワゴンではなくハイトワゴンカテゴリーに属しているため、後席ドアは普通のヒンジ式で4ドアモデルとして成り立っている。

 今回の新型をベースにスーパーハイトカテゴリーモデルも企画されているといい、N-BOX追撃の狼煙は今まさに立ち上がろうとしているのだ。
このホットな闘いを繰り広げている軽自動車。最新モデルにあなたも、ぜひ一度乗ってみてもらいたい。
(文=中谷明彦/レーシングドライバー、自動車評論家)