『大恋愛~僕を忘れる君と』公式サイトより
戸田恵梨香主演の連続テレビドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)は9日、第5話が放送されます。前回、第4話にして大きく動き始めましたが、平均視聴率は第3話から1.3ポイント下がって9.6%と初めて1桁台まで落ちてしまいました。第3話の最後で、北澤尚(戸田)が間宮真司(ムロツヨシ)を抱きしめながら「侑一さん」とつぶやいた時は、きつかったですね。
毎回、目の周りと鼻を赤くして涙顔になる戸田の演技が光っています。尚にかかわるいろいろな人々の個性や本心が少しずつ垣間見えてきました。やはり、人の感情は操れません。
そして、尚本人も、ちょっとしたことをすべて病気のせいにしてしまうようになってきましたね。診断が付いたとたん、今までなら“ただのおっちょこちょい”だったことが、認知機能障害になってしまう。
外来診察で井原侑一(松岡昌宏)も、「僕でもお風呂出しっぱなしにしますけどね」と言っていました。本当にそうですよね。若い頃は気にしなかったことも、年を重ねると「病気かな」と思い、不安になってしまうものです。人の感情と認知機能障害、すごく深いテーマのドラマです。
女医が相手で真司にはプレッシャー?
尚の診断名が明確になってくると、やはり周りの人も尚の行動を「病気のせいなのでは?」と疑い始めました。確かに、マンション内覧の約束をぽこっと忘れてしまったり、ドアに貼った覚書を見てしまえば病気の進行を疑ってしまいます。どこまでが病気で、どこまでがおっちょこちょいなのかは、区別もできません。
そして、前回の本コラムで予想した通り、真司は自分にまっすぐに向かってきた尚の行動を病気と絡めて疑い始めてしまいました。仮に真司がイケメン・高学歴・高収入であったら、こうは考えなかったのでしょうか……。
日常生活でも、尚に気遣いすぎる真司の行動が、痛々しくも見えてきました。尚の顔色を見ながら話題をスッと変え、友人に明るく自慢する姿にも陰と陽を感じてしまいます。自分に自信がないから、どうしても「真司が好き」と言われても、素直に信じられなくなってしまう真司。でも尚の病気がなかったら、「彼はもっと尚を受け止められなかったのでは?」とも思ってしまいます。
女医という尚の立場が、真司にどのようなプレッシャーを与えているかはわかりかねますが、やはり小説を書くことが彼の自信を取り戻す唯一の方法であることは間違いありません。第5話で動き始めそうです。
採血結果だけで健康体なんて証明できない!
一方、侑一の新しいお見合い相手の消化器外科の女医は、デートで採血結果を提出!“尚とかぶる女医”を演出するためだったのでしょうが、さすがに「女医をバカにしているのか?」と、怒りを感じた場面でした。女医はこんなことを重要視するほど、おバカではありませんよ。一枚でぴらっと渡せる採血結果で健康体を証明できるほど、医学は単純ではないことを、我々はよく知っています(感染症の結果は意味がありますが……)。
ちなみに、私の印象では、消化器外科医にはちょっと見えません。見た目は、腎臓内科医という感じです。こればかりはうまく説明できませんが……。
そして、侑一の母親・千賀子(夏樹陽子)もまた、“あるある”な感じ。決して悪い意味ではありませんが、医者の妻や母には、こういう感じの方がいます。ちょっと医療を聞きかじっているけれど、中途半端な“耳学問”の医学知識を持ち、それでも医療関係者ではない人と比べると、ちょっと知識があるのをひけらかしてしまう――。繰り返しますが、決して悪い意味ではありません。
というのも、私の母がまさにそうなんです。医者の夫と娘を持ってしまったために、周りの友達に中途半端な医学知識を植えこんでしまいがちで、それが週刊誌的情報だったりします。「うちのルミもそうよね~って言ってたわ!」なんて言われてしまうから、こちらは訂正にてんてこまいするわけです(笑)。会話の端々に医学用語を使われてしまうと、周りの人は信ぴょう性が高いような気がしてしまうのでしょう。侑一の母も、女医である尚の母に牙をむいていました。同じにおいを感じます。
“できる医者”設定の侑一ですが、おぼっちゃま感を出すには、わかりやすくて良い演出だな~と思いました。今の段階では、あの母がいなければ、侑一はすごく良い医師で素敵ですね。もっと“感情的”な人になってほしいところです。
第5話から、尚と真司の本気で病気と向き合った人生が始まりそうな予感がします。ここからが本当の闘いなのかもしれません。病気の本人、そしてその家族の苦しみと、その中にある幸せをどんなふうに見せてくれるのか。私にとっては、日々の外来に通じる感情も呼び起こされるドラマです。とても楽しみです。
(文=井上留美子/医師)
井上留美子(いのうえ・るみこ)
松浦整形外科院長
東京生まれの東京育ち。医科大学卒業・研修後、整形外科学教室入局。長男出産をきっかけに父のクリニックの院長となる。自他共に認める医療ドラマフリーク。日本整形外科学会整形外科認定医、リハビリ認定医、リウマチ認定医、スポーツ認定医。
自分の健康法は笑うこと。現在、予防医学としてのヨガに着目し、ヨガインストラクターに整形外科理論などを教えている。シニアヨガプログラムも作成し、自身のクリニックと都内整形外科クリニックでヨガ教室を開いてい。現在は二人の子育てをしながら時間を見つけては医療ドラマウォッチャーに変身し、HEALTHPRESS、joynet(ジョイネット)などでも多彩なコラムを執筆する。
